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相続登記の義務化|過去の相続も対象になる?改正後のルールを解説
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2023年時点では、相続で不動産を受け取ったとしても登記を行うことが義務にはなっていません。所有権についてトラブルが起こるリスクはあるものの現実に不利益を被るケースはそう多くはありませんし、不動産の価値が小さいときは「わざわざ費用をかけたくない」と考えて手続を行わない方もいます。
しかし2024年4月1日以後、このルールは変わって登記が義務になります。今後の相続の在り方が変わりますので、変更されたルールについてここで整理しておきましょう。
2024年4月1日から相続登記が義務化
「所有者不明の不動産が生まれるのを防ぐことと土地利用を円滑化することを目指した法改正」の一環として、相続登記が義務化されます。このルールは2024年4月1日から適用が開始されます。
法改正の要点は次のようにまとめられます。
- 相続や遺贈(遺言による遺産の取得)により不動産を得た方は、取得した事実を認識した日から「3年以内」に登記申請を行わなければならない。
- 遺産分割を経て不動産の帰属先が定まったときは、その定まった日から「3年以内」に、遺産分割の内容を反映させるための登記を行わなければならない。
なぜ義務化されるのか
相続後も遺産として受け取った自宅や宅地などの不動産に関して登記を行わず、放置をしていると、誰のものなのかがわからなくなってしまいます。実際、国土交通省の調査によれば誰のものか分からない(または所在がわからず連絡が取れない)土地は24%も存在しています。そしてその原因の多くは登記が未了であることにあるともいわれています。
誰のものか不明な土地に関しては、管理もされず放置されることも多いです。そして管理が行き届いていないと周囲の土地に悪影響を及ぼす危険があるなどの問題も起こり得ます。また、公共事業を進める際、復興事業を進める際などの取引が妨げられるなどの問題も起こる可能性があります。
しかも高齢化の影響も受けて今後はより深刻化すると見られていますので、こうした問題を防ぐ目的で、法改正により登記が義務となったのです。
なお、同じ目的を果たすため、他にも「土地を手放して適切に国庫に帰属できるようにして、国が管理処分できるようにする制度」「共有者が不明になっている場合において管理人を1人選任して、土地利用の円滑化を図る制度」なども新たに設けられました。これらに関しては2023年の4月から運用が開始されています。
簡易な相続人申告登記の仕組みも新設
相続後の登記が必須となることで、相続人手続に関する負担は大きくなります。複数の相続人がいるときには相続人の調査を実施し、それぞれの法定相続分を確定させること、そして亡くなった方の死亡~出生までの戸籍謄本等を集めなければならない等、申請するのも楽な作業ではありません。
しかも新制度にはペナルティも定められており、申請を適切に行わなければ最大10万円を支払うよう求められる危険もあります。
そこで申請手続に係る負担を軽減する措置として、簡単に申請ができる仕組み「相続人申告登記」も新たに用意されました。
次の2点について、所定の期間内である「3年以内」に登記官に申し出れば、申請義務を果たしたものとみなされます。
- 登記名義人に関する相続開始があったこと
- 自分自身が登記名義人となる相続人であること
この仕組みによれば、相続人が複数人いたとしても単独で申出をすることができますし、他の相続人に関して代理申出を行うこともできます。必要書類は、名義人である相続人自身についての戸籍謄本(相続人であることが示せる戸籍謄本)だけで足ります。
また、申出の時点では相続人の範囲や法定相続分を確定させる必要もありません。そのため遺産分割協議の結果を待つことなく義務を果たすことが可能です。
ただし、その後遺産分割により権利に変動があったときは別途手続を行う必要があります。
遺産分割や遺言書があるときの登記義務
上記「相続人申告登記」の義務は基本的義務であって、後々遺産分割等があったときは追加的義務として、その内容を反映させるための登記申請もしないといけません。
この追加的義務と基本的義務に関して「遺産分割が成立したケース」と「遺言書があるケース」に分け、法律上の義務をどうやって果たせばいいのか、その方法を説明します。
遺産分割が成立したケース
遺産分割が3年以内に成立しないときでも、いったん、相続による不動産取得を認識してから3年を経過する前に登記を行う必要があります。
その上で、その後遺産分割が成立して特定の人物に所有権が集約するなど権利に変動があれば、「遺産分割成立のときから3年以内」に追加で登記を行う必要があります。こちらの登記も法律上の義務です。遺産分割の内容を反映させなくてはなりません。
《 遺産分割が3年以内に成立しないときの対応 》
①相続人申告登記を済ませておく + ②遺産分割の内容を反映させる
※その後も遺産分割が行われないときは追加で申請を行う必要はない。
3年以内に遺産分割が成立する場面においては、わざわざ2回に分けて登記を行う必要はありません。相続人らで話し合った結果を1回で反映させれば法律上の義務を果たせます。
一方で、先に相続人申告登記をしておいた場合において、その後遺産分割が成立したなら、その成立から3年以内に追加で手続が必要となります。
《 遺産分割が3年以内に成立するときの対応 》
パターン1:①遺産分割の内容を反映させる
パターン2:①相続人申告登記 + ②遺産分割の内容を反映させる
遺言書があるケース
「〇〇の土地をAに遺贈する」「△△の家屋をBに相続させる」など、亡くなられた方の作成した遺言書の効果として不動産を譲り受けたときも、その事実を認識した日から3年以内に登記を行わなければなりません。
なおこの場合は①遺言内容を踏まえた登記、または②相続人申告登記、のいずれかを行えば法律上の義務を履行したことになります。
そのため遺言書が見つかる前に相続人申告登記を行っていたのであれば、遺言書発見後に再度手続を行う必要はありません。
過去の不動産相続も対象!
新ルールは、過去に行われていた不動産相続にも適用されます。
ただ、過去の相続分についてはすでに「3年以内」という期間を過ぎてしまっているものもありますし、すぐに期限を迎えてしまうおそれもあります。
そこで経過措置として、次のいずれか遅い時点から3年間が期限として適用されます。
➀ 相続による不動産の取得を認識した日
② 改正法施行日(2024年4月1日)
多くの場合は「②の時点から3年間」が適用されると思われますが、例えば相続が新制度開始より前時点で開始されていても不動産の存在を知ったのが改正法施行日以降であれば、不動産の存在を認識できた日から3年間が期限となります。
相続登記をしない場合のペナルティ
改正法施行後、登記義務を果たさないときは「最大で10万円の過料」というペナルティを課されるおそれがあります。
※過料:行政上のペナルティであって犯罪による刑事罰とは異なる。そのため義務に反しても前科は付かない。
とはいえ過度に心配をする必要もありません。「法改正のことなんて知らなかったのに気づけば過料を言い渡されていた」といった事態も基本的に起こりません。
政府の示す新ルール運用の指針によれば、いきなり過料を課すのではなく、「事前に申請義務者に対する催告を行う」と定められています。
催告を受けてから対応すれば過料を言い渡されることもありません。
また対応ができない「正当な理由」があるときにもペナルティは免除されます。親族が非常に多く資料収集や調査に時間がかかる、遺言書の有効性について現在裁判で争っておりしばらく解決しそうにない、経済的に困窮しており今すぐに費用負担を負うことが難しいなど、さまざまな事情が考慮されます。